調和、対話、共同体——「アジアの知恵」で世界に寄与

出所:http://www.peoplechina.com.cn | | 発表時間:2023-05-06

福田康夫=語り手 王敏=聞き手

 新型コロナウイルス感染症の流行は収まる気配がなく、国際情勢も複雑で混沌とした様相を呈しており、人類は100年に一度ともいえるような変貌を遂げる世相の中、前例のない課題に直面している。過去100年の歴史の中で運用され続けてきたガバナンスに、いよいよ転換の時期が訪れているともいえるだろう。本誌は福田康夫元首相と日本在住の著名な学者である法政大学の王敏名誉教授を招き、「文化」を発想の軸に置き、さまざまな問題を「共に」解決するための知見を語ってもらった。環境ガバナンスや国際関係などの諸問題に対し、長年にわたって育まれてきた「アジアの知恵」は、果たして問題解決に寄与するのだろうか。

 王敏 中日両国は古くから同じ源流の文化を持つ一衣帯水の隣国です。せんだって岩波書店からお父様の伝記『評伝 福田赳夫』が出版されましたが、書中には両国の歴史の交わりや文化の融合についても触れられていますね。

 福田康夫 福田赳夫は1905年生まれで、95年に亡くなりましたから、書中には20世紀の真ん中の90年間の歴史が描かれています。福田赳夫の人生を描くことで、それがそのまま日本の歴史にもなり、さらに中国の歴史も部分的に描くことになりました。さらに欧米の経済の話も加わりますから、まさに20世紀の歴史そのものを語っているといえるでしょう。この本を読めば、20世紀のさまざまな出来事に対する理解が深まると思います。

 王 今年は中国共産党成立100周年ですが、この100年は福田赳夫先生の人生を通して見る日本史の100年でもあると思います。同じ時代を異なる場所から見た100年の発展と特徴を俯瞰することができ、非常に参考になると思います。

 福田 福田赳夫の父と祖父は明治の教育を受け、中国の書物で勉強したため、漢学の教えに従った人生を送ったことでしょう。よって、今の中国人以上に中国人的な考え方を持っていたかもしれません。なにせ祖父は、赳夫の名を詩経の「赳赳武夫公侯干城」から取ったくらいですから。

 われわれの時代も中高生は漢文が必修で、中国の古文を学ぶ機会がありました。さらに日本の明治期の人々は中国の昔の歴史も勉強したため、中国文化は小さい頃から非常になじみあるものだったのでしょう。

 王 福田先生は訪中時に「温故創新」という言葉を揮毫し中国側に贈られましたが、論語の「温故知新」をもじり「創新」としたところに、漢学への造詣の深さが見て取れます。日本の人々は中国の古典から参考に値する教養を得ていましたが、長い歴史の中で培われた交流の「点」は歴史上の人物にもつながっています。例えば治水の神とも言われる禹王もその一人でしょう。

 人間と自然の関係に思いをはせた時、人々の想像はおのずと禹王の故事につながります。お父様の時代から資源の有限性が認識されていましたが、その認識を発展させたのが福田先生だったということを、本書を読んで知りました。実際に福田先生は、総理着任以降一貫して温暖化問題や環境問題に取り組まれました。原点は禹王を含めた先人たちのエコ文明の精神かと思います。私はそんな先生方の支援を受けることで禹王研究を続けることができました。本当に感謝いたします。

 福田 王敏先生は禹王と日本の関係について非常に詳しく、日本人の私にその関係の深さを教えてくれました。日本には禹王関連の遺跡が約150カ所あるそうです。そのほとんどが近代以降に作られたことからも、近代日本が中国の故事にならって禹王の教えを大切にしていたことが見て取れます。

 中国も社会が落ち着いてきて、昔のことを勉強し大切にしていきたいという気運がとても高まっているように思えます。大変素晴らしいことです。昔のことを研究し、昔にならうという精神は大切です。人類の足跡を私たちはしっかりと理解する必要があります。特に産業社会で温暖化などの問題が出ている今は、人類の永続が疑われています。禹王しかり、昔の人々は自然とうまく調和し、対話して歴史を重ねてきましたが、今はどうもその対話がなくなっているように思えます。今こそ「自然との対話を取り戻す」という発想を持つべきだと着眼すれば、治水の神にもたたえられる禹王の研究にも大きな意味があると思います。

 王 日本にも角倉了以という「大禹」がいましたね。1919年、日本に留学していた周恩来は京都の嵐山を訪れ角倉の足跡を追い、中日共通の「大禹」に敬意を評し、自らの初心を固めました。大禹の信仰は日本に定着し、角倉によって実践されました。これは伝統文化の継承と中日文化における典型像だと思います。周恩来は「大同の理想」を掲げて日本に留学し、多くの中国の有志青年同様、国を救い、労苦にあえぐ大衆を解放するための道を模索していました。そして中国共産党は100年における波乱の歴史を経て、ついに絶対的貧困を撲滅し、小康社会(ややゆとりのある社会)の全面的構築という目標を達成しました。せんだって中国は『中国共産党の歴史的使命と行動の価値』という文献を出しましたが、ここからは中国共産党が成立当初からの国家統治の原則や実践、成果を継承していることが分かります。中でも私は、エコ文明構築や人類運命共同体の理念などが、東洋の伝統文化の輝かしい知恵によるものだと感じています。伝統文化の知恵という特色は消えることなく、中日両国や漢字圏は自然の継承と実践の恩恵を受けています。その起源となる時代ははるか昔ですが、共通する教養は依然として日本の方々の理解と共鳴を呼ぶことができるのです。福田先生は、中国の建設と発展、そして世界に向けた行動に関してどう思われますか。

 福田 中国は成長スピードが非常に速く、人口も多い国です。その発展は比較的短期間で実現されましたが、その中心となったのはエネルギーを大量に消費する産業社会でした。よって地球温暖化など、自然との共生の問題について真剣に考え、対策を練らなければいけないと思っています。その点、習近平主席は気候変動を注視すると表明しているのはとても立派だと私は思います。本気で気候変動対策に取り組む姿勢は大いに評価できます。

 温暖化問題は一国の問題ではありません。その意味においては、まさに人類運命共同体なのです。習近平主席はそれを意識して人類運命共同体を提唱されたのかは分かりませんが、きっと同じような気持ちを持っていたのでしょう。大変な慧眼を持っておられると思います。

 昔は中国も日本も、ものを大事に長く使うことを大切にしてきました。ところが第2次世界大戦が終わり、米国中心の経済発展が始まると事情が変わってきました。米国は「自由競争」の名の下で安いものをたくさん作り、購買意欲をあおる経済社会をつくってしまったのです。今の時代はそれに対する反省があります。

 王 新型コロナの流行下、国際関係は複雑かつ流動的であり、中日両国の国民感情も決して楽観視できません。福田先生は一貫して対話と各レベルでの交流強化を呼び掛けてこられましたが、その支えとなっているものは何ですか。

 福田 国際情勢のうち、日中問題と中米問題は最大の問題ではないかと思います。さらにアフガン問題やミャンマー問題も大きな問題です。しかしこれらは一国では解決できない問題ばかりで、多国間で知恵を出し合いまとめなければなりません。しかし今はその「話し合い」の機会が途絶えてしまったのです。これは新型コロナの影響も大きいので、コロナ様にはせめて対話くらいさせてくださいとお願いしたいところです。

 対話が圧倒的に不足しているのは誰もが認めるところでしょう。中米間もろくに対話をしていません。中米問題は両国にとっても根幹的な問題ですから、トップ同士の対話が望まれます。

 日中間も同じです。大きな問題はないものの、細かな問題でもめ事が絶えません。ですからトップ同士が考えを述べ、相手の考えをよく聞き、何が良いかを決めていただき、方向を決めることをお願いしたい。でないとつまらないことばかり起こり、国民が不愉快な思いをするばかりです。国民を不愉快な思いにさせるような政治家はいけません。トップは国民が納得できるようなことを言わなければいけないのです。

 王 私は異文化コミュニケーションと国際対話の授業で、交流の欠如によって命を落とすことになった歴史的事件をしばしば引用しています。時代は違っても、コミュニケーション不足という教訓には学ぶ価値があると思います。

 福田 特に政府間に対話がない時は、メディアを使って間接的に対話を行うものです。ですからメディアには導きたい方向についてしっかりとした考え方を持ち、誘導を心掛けていただきたいものです。

 王 福田先生はコミュニケーションにおけるメディアの役割を常に重視しておられ、豊富な実体験を、ユーモアを交えてお話しになります。『人民中国』にも期待を寄せておられましたね。『人民中国』は私も大学時代から読み、教科書として使っていました。40年前当時は日本語の読み物といえば『人民中国』と『北京週報』しかなかったため、その存在には大いに救われました。日本関係のことを学び、あるいは仕事にしている人間にとって、『人民中国』は非常に得難い教材であり、とても重要なメディアだと思います。

 福田 『人民中国』にはぜひよろしくお願いしたいですね。

 政治的な問題や対立はままあることですが、政治に問題があるからといって国民まで対話しなくなるのはおかしいことです。政治の対立を見て、相手国の人々と口をききたくないという心情になるのは理解できますが、国民が政治に忖度して対話しなくなるのは良くないことです。国民同士の対話はいつでもできるようにしておかなければいけません。われわれは、政治と無関係の分野でさまざまな対話を進めることを中国の指導部の方々と検討し、文化交流が必要であるとの結論に至りました。ですから新型コロナという障害があっても、文化交流だけは続けていきたいと思っています。

 王 おっしゃるとおり、指導者同士の対話と国民同士の交流の強化は、新型コロナという障壁を打破し、両国間の相互理解と信頼を高めるために大切だと思われます。日本は今年、困難の中オリンピックとパラリンピックの開催に成功しました。来年は北京で冬季五輪が開催され、聖火の下で行われるスポーツ交流が、中日両国と世界を「より結び付ける」ことが期待されます。さらに来年は中日国交正常化50周年という節目の年であり、両国関係がこれを機会に新たな発展を遂げることも期待できます。

 福田 世界に約200もの国がある中で、日本と中国はたったの2国にすぎません。しかし考えようによっては、日中関係以上に大切な関係はありません。両国が協力すれば、世界の平和と安定を実現できるほど大切な関係だと私は思っています。さらに米国とも一緒に世界情勢を考えられるような時代が来ることを望んでいます。中国に対する期待は非常に大きく、人類運命共同体を唱える中国はとても大切な国なのです。

 (于文=構成)


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